中央市に本社を置く株式会社サラダボウルは、国内12社、海外1社のグループ会社を持ち、北杜市では武川町と須玉町で最先端の技術を用いた高度な環境制御型ハウスでトマトを大規模に栽培しています。人と地域の産業を育てるサラダボウルが目指す「農業の新しいカタチ」とは?
他産業からの学びを農業のヒントに
2004年に中央市に設立されたサラダボウルは、東北や兵庫など国内に12社、ベトナムに1社のグループ会社を持ち、トマト、ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなど約30品目を生産している。中でも最新のテクノロジーを駆使したグリーンハウスでのトマト栽培に力を入れており、北杜市では2016年に創業した武川町の「アグリビジョン」、2019年に創業した須玉町の「アグリサイト」の2拠点で、年間合計約2,000トンのトマトを生産している。サラダボウル代表の田中進さんは、銀行と外資系保険会社にそれぞれ5年間勤めた後に農業へ参入したという一見異色とも見える経歴の持ち主だが、「今の会社があるのは他産業からたくさんのヒントをもらったから」と語る。
「私は中央市の農家の家に生まれましたが、子どもの頃は『農業は時代遅れだ』と思っていました。東京の銀行に就職したのですが、銀行職員として経営者の方のサポートを行っていく中で、『どんな仕事もやり方次第なのだ』ということに気付きました。どんなに不況の中でもうまくいっている会社はあって、その理由を現場に足を運び学びました。経営者の情熱や創意工夫で事業の結果が大きく変わるのは、きっと自分が子どもの頃から見てきた農業の世界でも同じに違いないと考えるようになりました」
経営者の想いや会社の理念が社員にきちんと共有されており、みんなが同じようにそれを語れるということ。また、製造業で大事とされる5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)やカイゼン活動が日々当たり前に行われていて、たとえ古い町工場であっても中に入ればピカピカに磨き上げられた道具が決められた場所にきちんと並び、効率よく作業ができる環境になっていることなど、田中さんは他産業から事業を成功させるためのヒントをたくさん得た。そして、事業について熱く語る経営者たちの姿に、情熱を持って農業に取り組んでいた両親の姿を重ね、自分が見てきたものを農業に取り入れることで、「農業の新しいカタチ」をつくりたいと考えるようになっていった。
「よくよく考えたら、人にとって大切な衣食住の『食』の部分で社会と繋がっていく農業は、非常に尊い仕事なのではないかと感じるようになりました。そして、そこに他産業のノウハウを取り入れていけば、『農業はかっこいい仕事』と言われる未来もつくれるような気がしたんです。農業全体を変えたいという大それたことではありませんが、農業にいろいろな形がある中の一つとして、自分たちらしいカタチを創っていけたらと思いました」
そうして設立されたサラダボウルは、露地栽培から事業をスタートし、農家の高齢化や耕作放棄地の増加などを背景として現在はテクノロジーを駆使したハウス栽培に力を入れている。その他にも商品の企画・開発・ブランディング、売り場づくり、経営コンサルティングなど幅広い事業に取り組んでいるが、田中さんの根底にある想いは当時と何一つ変わらない。
「人を育てる人」を育てる
サラダボウルのハウス内を見渡すと、若手社員がいきいきと活躍している姿が多く見られる。会社の仕組みとして入社時研修、新人研修、中堅研修などを実施しているため、社員は成長の道筋を掴みやすくなっている。また、月に一度は社員全員参加のウェブミーティングを行い、会社のミッション・ビジョン・バリューを共有しているほか、3ヶ月に一度は一人一人との面談も行っているという。丁寧なマネジメントの背景には、「気持ちよく働いてもらいたい」という社員への心遣いに加え、「“人を育てる人”を育てる」という会社の目指す姿がある。
「 うちで働いてくれているのは、週休2日で安心して農業に取り組むことができることも一つの要因だと思います。農業は人手不足が問題とされていますが、うちは安心して長く働ける環境があるので人は集まりやすいとも思います。ただ、これからさらに全国に農場が増えていった時に、そこで全体をマネジメントできる人材を育てるというのが課題になってきます。“『人を育てる人』を育てる”というのをずっと目標に掲げていて、まだまだ会社としてそれができているとは言えませんが、みんながそういう想いを持って仕事に取り組んでくれているので今に繋がっているのかなと思います」
田中さんの言う『人を育てる人』とは、地域や次の時代を担っていく人のこと。特に近年は海外からの研修生の受け入れもしており、より広い視野で全体を見ることができる人材が必要となってきているという。
「サラダボウルグループ全体では、パート社員や海外人材を合わせて約800人を雇用しています。グループ会社も今後さらに増えていく見込みです。多くの人がいる中で、それぞれが持つ能力を存分に発揮しながら気持ちよく働いてもらうためには、会社として一人一人に寄り添う仕組みを考えていかねばなりません。しっかりと良いものをつくり、生産性を上げ、得られた利益を働く人たちに還元していく。それは農業に限らずどの会社においても大切なことですよね」
会社名の由来は、赤や緑、黄色や紫、甘いもの、酸っぱいものもあって、その全てが各々の個性を存分に発揮しながらひとつの器の中で最高のハーモニーを醸し出す「サラダボウル」からきている。これからもたくさんの個性が大きなサラダボウルの中で混ざり合い、互いの良さを引き出しながら、一つのチームとして自分たちらしい農業を続けていくのだろう。
農を地域にとって価値ある産業に
各地にサラダボウルの農場は増え続けているが、田中さんは「事業を大きくすることに特段興味はない」と言い切る。それでも周りが驚くほどのスピード感の中で次々と事業が拡大していくのは、「農業で人を幸せにし、社会を豊かにしたい」という想いが根幹にあるからだ。
「サラダボウルには売り上げ目標もないし、農場の数をいくつに増やそうという目標もありません。ただ、地域の方から『ここに仕事をつくってほしい』という相談を受け、自分たちが少しでも力になれそうで、それが誰かに喜んでもらえることなのであればやってみようということの連続で規模が拡大してきました。地域を守っていくには、そこで生計を立てられるようにすることが重要です。それもただ稼げればいいというわけではなく、やりがいがあり、子どもたちが憧れるような仕事がないと、人がどんどん居なくなってしまいます。そうすると、医療も福祉も教育も保てなくなって、地域が疲弊していく。コミュニティを維持していくために産業は必要不可欠な要素だと思うので、どの地域で展開するとしても、そこの部分はしっかりと考えていきたいです」
田中さんは「ただ自分たちのやりたいことをやっているだけで、特別なことは何もしていない」と言うが、地域の期待を背負い産業を生み出すということを着実に続けていくには、相当な情熱が必要なはずだ。
「僕らの情熱は、落ち葉を燃やしたような燃え立つ炎というよりは、消えているかのように見える真っ白な炭の中が3,000度くらいあって、風が吹こうが雨が降ろうが消えないという状態に近いと思います。派手ではない情熱があるから農場がきちんと回っているし、そこにやりがいや面白さを見出せる人たちが集まっている会社なのです。これからも自分たちのペースで一歩ずつ進んでいきたいと思います」