自由度の高い組織で高品質な有機野菜づくりを実現する生産者グループ  農事組合法人グットファーム

2003年に有機農産物の共同出荷グループとしてスタートした「農事組合法人グットファーム」は、「ココロとカラダにぐっとくる野菜」をコンセプトに、メンバーそれぞれがつくる品質の高い有機野菜を持ち寄ってパルシステムや東都生協等の首都圏の生協を中心に共同出荷している。

グットファームでは、メンバー全員が有機JAS認証を取得すること、それぞれが共同出荷先の他にも個々の売り先を持つこと、「4つの約束」を掲げてメンバー同士の対等な関係を保ち続けることなど、メンバーが気持ちよく生産に集中できるようにするための独自の仕組みが築かれている。

そんな彼らのつくる野菜は見た目も美しく、味がしっかりと濃くて美味しい上に棚持ちも良いと、客先からも評判なのだそう。

今回は、グットファームの有機野菜が高い品質を維持できている理由を探るべく、代表理事を務める坂本貴司さんと、メンバー最年少の富岡丈明さんにお話を伺いました。

個々が品質への責任感を持てるようにするための仕組み

 

グットファームは、30代〜50代と農事組合法人の中では比較的若いメンバーで構成されており、現在は9名のメンバーが所属している。全員が前職では全く違うことをしていた新規就農者であり、介護職、劇団員、バンドマン、デザイナー…とさまざまな経験を持つ個性豊かなメンバーが揃っている。

前職では自動車メーカーに勤めており2012年からグットファームに所属している坂本さんと、前職では電子部品の会社で営業職をしており2014年から所属している富岡さんは、グットファームの組織の在り方に魅力を感じて加入したメンバーだ。

 

坂本さん:多くの共同出荷グループでは、基本的に共同の出荷先のみに出荷する生産者が集まっていることが多いと思います。それと比べてグットファームは、各々がスーパー、デパートの食品売り場、自然食品店、レストラン、直売所などさまざまな出荷先を持っています。グットファームに加入するには個々で有機JAS認証を取得することが条件となるのですが、認証を取得できるのは有機的な管理を開始して3年目からなので、その間の売り先は自分で確保するより他なく、加入前に必ず自身で営業活動をしてお客さんに直接野菜を届けるという経験をすることになるんです。そのため、それぞれが品質への責任感を強く持つことができますし、法人に頼りすぎることなくそれぞれのバランスで関わっていけるところがいいなと思います。

富岡さん:シーズンが始まる前にメンバーそれぞれが出荷できる数量をまとめてから取引先と商談をしているので、自分の野菜をどのくらいの割合で共同出荷先に出すのかも自分で決められるんです。そのため多く野菜が取れたときにも枠の奪い合いにならずに済みますし、野菜が思うように成長しなかったというときには他のメンバーが代わりに枠を埋めてくれるので、取引先の信用を失わずに済みます。自由度が高い上に、共同出荷することの多くのメリットを享受できるので、とても助かっています。

 

有機JAS認証は毎年更新が必要であり、その度に10万円ほどの費用を支払い、検査員による育苗施設から畑、出荷場までの全行程の検査を受けなくてはならない。それに伴い、何の資材を使ったのか、何の種をいつどのくらい撒いたのか、何個の野菜に有機JASマークを付けて販売したのかなどの記録書類も必要となる。そういった管理業務が苦にならないメンバーが集っているというところが、法人として高い品質を維持できているポイントの一つでもある。

坂本さん:行程を手間に感じて認証を受けていない有機農家もたくさんいるのですが、慣れてしまえば日課になるので、僕はそこまで大変だとは感じません。むしろ記録があった方が、「去年のこの時期はこのくらいの種を撒いてこのくらいの売り上げになったんだな」などと振り返ることができるので、経営感覚も身に付きますし、自分の強みを見つけやすくなると思います。

富岡さん:有機JAS認証は、トレーサビリティを担保するためのものでもあります。他の食品にロット番号や製造地などの情報が明記されているように、これからは農作物もそういったことをきちんと説明できないと手に取ってもらえない時代になってくるのだと思います。グットファームのメンバーは管理をしっかりとしているので、畑も荷造りもきれいだし、出来上がる野菜も慣行農法でつくった野菜並みの見栄えです。メンバーの基準が高いので、後から入ったメンバーも自然と品質の高い野菜をつくるようになります。

メンバーの在り方を見える化する「4つの約束」

グットファームには、立ち上げ当初から以下の4つの約束が掲げられている。


1.公正であること

(メンバーにも消費者にもうそをつかない)

2.対等であること

(メンバーは年齢や規模などにかかわりなく対等な立場で参加する)

3.分担すること

(グループの存在に必要な仕事は等しくメンバー全員が分担する)

4.発展的であること

(置かれている状況にかかわらず発展的に考えること)


 

富岡さん:自由度の高い組織ですが、この約束事があることで、みんなの意識がまとまっているというところがあると思います。若年で入った僕にもみなさん対等に接してくれて、どういう品種を使っているのか、どういう管理をしているのかなど何でも教えてくれますし、失敗談も隠すことなく話してくれます。そして「失敗してもフォローするからやりたいようにやってみなよ」と言ってくれるので、とても心強いです。

坂本さん:僕らも入ったときに自分より経験のあるメンバーに全部教えてもらってきたので、新しく入った人にも同じように情報を共有するのが当たり前だと思っています。共有はするけど、強要はしない。そんな文化ができているんですよね。最初からうまくできなくていいし、教わったことをしっかりやれば、必ずできるようになるものです。

 

富岡さん:グットファームのメンバーは本当に人格者揃いで、「ついていきたい」と思える人ばかりなのですが、もしかしたら有機農業を通してそうした人格が育っていくのではないかなと思っています。有機農業は自然の力に任せる部分が大きいので、うまくいかなくても「しょうがないよね」「そういうときもあるよね」と潔く諦めて切り替えることが大事になります。日常的にそうした経験をしているから、何があっても受け入れられる寛容さが育まれているのではないでしょうか。

坂本さん:わざと失敗しているわけじゃないのに文句を言ったって仕方ないですからね。農業は一回で終わりなわけではなく次のチャンスがくるものなので、またそこに向けて頑張ればいいという簡潔でわかりやすい世界なんです。それに、失敗談だって貴重な情報源。地域によって合う品種と合わない品種があるから、試してみてどうだったのかという情報を共有できるのはグループのメリットだと思います。

富岡さん:グットファームでは、事務作業を担当した人にも法人からしっかりと手当が支払われますし、管理しやすいエクセルシートなども整えてくれているので作業もスムーズにできるようになっています。誰か一人が負担を背負わずに済む仕組みになっていて、どんなときも立場が対等なんです。そういったメンバーの姿勢を見える化してくれているのが、初代メンバーが掲げてくれた4つの約束ですね。

有機農業の魅力を伝えていくこと

未経験で農業を始めた二人は、目指すべき存在に出会えたことで大きく自身の人生が変わったという経験から、これから農業を始める人にもグットファームを入口として農業の魅力を感じてもらいたいと願っている。

富岡さん:僕はもともと一人で農業をしていて、当時は全然うまくいかなくて別のアルバイトを掛け持ちして何とか生活を成り立たせていました。そんなときに先輩農家の紹介で同じ集落で営農する坂本さんと出会って、すごくスマートに農業で生計を立てているのを見て良い意味でショックを受け、そこから価値観が大きく変わったんです。それまで雲の上の存在だと思っていたグットファームに入れてもらって、みなさんに様々なことを教わって、それを実践していたらいつの間にか農業で家族を養えるようになりました。今農業をやっていてうまくいっていないという人も、僕のように良い事例を見たりするだけで、何か変わるかもしれません。

坂本さん:どのような人に会うのかって重要ですよね。自分たちは、転職前は共働きでばらばらの生活を送っていたので、家族との時間が長く持てる職業を模索していた時期に、グットファームの初代メンバーの伊藤さんに会ったんです。当時は「有機農業で食べていくことなんて本当にできるの?」と思っていましたが、彼は美味しい野菜をたくさんつくって、立派な家まで建てていて。伊藤さんのところを見学させてもらって農業に対するイメージが変わったことが、農業に転職する大きなきっかけになりました。

富岡さん:「こうなりたい」と思える人が近くにいて、その人に直接いろいろなことを教えてもらえるのは幸せなことですよね。基本は自由にやってみなよというスタンスで経営者として尊重してもらえるけれど、聞けば何でも教えてくれる。農業に興味のある人たちに、グットファームという良い受け皿があることをもっと知ってもらいたいです。

坂本さん:グットファームは、組織を大きくして、年商何億を目指して…ということを目標にしているわけではないので積極的にメンバーを勧誘したりすることはしていないのですが、楽しく農業をできる人を増やしていけたらという想いはあり、研修生の受け入れなどもしています。

富岡さん:「農業って大変でしょ?」とよく聞かれるのですが、意外と「気合い」「努力」みたいな世界観でもなくて、生活そのものという感じなんです。少量他品目で野菜をつくっていると自分の食卓の野菜を網羅したいという欲求が生まれてきて、家庭菜園を大きくやっているような感覚になってきます。美味しい野菜を一番に食べられる喜びも感じられますし、自分のつくった野菜を人に食べてもらえる喜びもひとしおです。「3K」などと言われてしまう農業ですが、楽しく農業をやって生計を立てている人の話を聞く機会がもっとあれば、農業のイメージが変わっていくのではないかと思います。

坂本さん:有機農業は特に大変だと思われがちですが、初めから有機農業をしていればそれが当たり前になるので、特別大変だと思うことはありません。どの仕事だって少なからず大変なことはあるはずなので、それと変わらないんじゃないかなと思います。今は情報発信もしやすい時代なので、僕らももっと有機農業の楽しさを発信していくべきですね。

富岡さん:新規就農で有機農業をする人も増えていますし、野菜の美味しさを数値化する技術も進んでいて有機野菜の美味しさが証明されてきていることで、これまで慣行でやっていた人たちも有機農業に興味を持ち始めています。国も有機農産物のPRに力を入れ始めているし、これから有機農業はどんどん面白くなっていくのではないでしょうか。

坂本さん:有機野菜と言っても地域ごとに全然味が違うので、気温差が大きく雨が少ないこの八ヶ岳エリアだからこそ出せる味というものをもっと全国にアピールしていけたらなと思います。産地としてのレベルを向上させるために、グットファームでは生産者を集めた勉強会も定期的に開催しているんです。地域のみんなで情報を共有しあって、生産者も消費者もみんなが笑顔になれるような仕組みづくりをこれからも目指していきたいです。

 

いきいきと有機農業の魅力を語り、農業でしっかりと生計を立てていく姿を見せてくれるメンバーが集う団体があることは、今後ますます農業に興味を持つ人たちの大きな希望となっていくだろう。