生産から販売までを自分たちで担い、日常に花がある喜びを届ける Flowers for Lena 鈴木徹さん

八ヶ岳南麓、標高約1000mの自然豊かな場所にある花屋「Flowers for Lena」は、花の栽培計画から種まき、収穫、販売にいたるまでの工程を自分たちの手でおこなっている。

一般的な花屋では生花市場で仕入れて販売するという流れがスタンダードな中、Flowers for Lenaのようなスタイルはかなり珍しい。オーナーの鈴木徹さんに、このスタイルに辿り着くまでの経緯と、思い描いている未来について尋ねてみました。

農家として始まった花屋

Flowers for Lenaの店先には、化学肥料は一切使用せず農薬も最小限に抑えた露地栽培で生産された色とりどりの花々が並んでいる。昼夜の寒暖差があるこの地域ならではの自然のめぐみをたっぷりと受けて育っているからか、花々は力強くのびのびとしている。直販ならではの価格も相まって気軽に花を日常に迎え入れられる。近所の人の日常使いに、そして遠方からわざわざLenaの花を買い求めに来る人も多くなった。

オーナーの鈴木徹さんは、神奈川県横須賀市で雑貨屋を営んだ後に農家を志し、2001年に新規就農者として北杜市の高根町に移住した。始めは花農家ではなく、野菜農家として農業をスタートした。

「最初はニンニクを中心とした有機野菜の栽培をしていました。あるとき連作障害を予防するために裏作で植えていたソルガムや麦をドライフラワーの材料として譲ってくれないかという相談を受けたことをきっかけに、花き類や生花の栽培を始めました。花の栽培は習ったこともなかったので、作りながら覚えていった感じです。最初はヒマワリや千日紅だけでしたが、現在は市内に点在している計約1.8ヘクタールの畑で高原ならではの花々を約40種類育てています」

鈴木さんは需要に答えて野菜から花へと生産品目を変えたものの、その二つに特別な差は感じないと言う。しかし、北杜市に来る有機農業を志す新規就農者たちの中で花づくりをしたいという人はなかなか現れないそう。

「花も化学肥料は一切使用せず、農薬も最小限に抑えた方法で生産しているので、野菜を作っていた頃とやっていることはほとんど変わりません。ただ花を育てるにはネット掛けや支柱などの細かく繊細な作業も必要なので、そこは手間や繊細な部分が増えます。なので花をしっかりと育てることができればどんな野菜でもつくれると思うんです。しかし、花づくりが農家という仕事のひとつとして認識されていないのか、花農家の数はなかなか増えていません。うちみたいな場所がいくつかあったら面白いと思うので、同じようなスタイルでやりたいという方がいたらサポートはしたいと思っているんですけど」

一棟の牛舎との出会い
この場所でやっていきたいこと

花農家となった鈴木さんは、“日常の中で気軽に花を飾る喜びをもっと多くの人に届けたい”と感じ、生産者である自分が花屋を始めれば新鮮でリーズナブルな、手に取りやすい価格でお客さんに花を提供できると考えた。そしてたまたま農業研修で訪れた大泉の地で、一棟の牛舎に出会う。

「この牛舎が建つ場所を初めて見たときに、ここは人が集う良い景色が生まれる場所になるだろうとすぐにイメージできました。感覚で理由はないんですが(笑)。もともと雑貨屋を営んでいた経験もあったので店を始めることへの不安はなく、すぐに持ち主を探して、“ここを花屋にしたい”という相談をしました」

熱い想いが大家さんに伝わり、借りられることが決まったらすぐにDIYで牛舎の改修を開始。花を収穫して牛舎の中で作業し軒先で販売するというLenaのスタイルが確立された。敷地内にはもう一つ小屋が立っていたので、そこはドライフワラー用の乾燥室に改装して、収穫した花を無駄にすることなく売る仕組みも作った。DIYもお店の運営も、移住前の仕事の経験が役にたったそう。

「花屋を始めるという意識はぜんぜんなくて、単純に作っている花を新鮮なまま売れて、500円くらいで軒先で気軽に買ってもらえて、なんてことのない日にも花が身近にある環境が生まれたら素敵だなって思ったんです。それができるのはやはり生産者だからこそ。お店が広がった今もその思いはまったく変わらないです」

2018年、鈴木さんは新たにショップ兼作業場となる建物を敷地内に建設した。1Fに作業場と販売スペース、2階には、ドライフラワーのショップの他、鈴木さんたちスタッフがセレクトした生活雑貨の販売スペースとカフェを併設。単に花を買うだけではなく、暮らしを豊かにする提案もしている。現在は牛舎は使われていないが、鈴木さんはこの牛舎の新たな使い道をすでに決めているそうだ。

「いつかこの牛舎で、旬の食べ物を提供するレストランを開きたいんです。この広い敷地を花や草木を楽しめるガーデンにして、外でもご飯が食べられるようにしたら素敵じゃないですか。たまたま花屋が先になりましたが、もとは有機農家なので『食』の部分もトータルで提供して、この場所に来てくれるお客さまにここだけの素敵な時間を過ごしてもらいたいという気持ちがあります。いつか必ず実現したいです」

少年のようにワクワクとした様子で語る鈴木さんの目には、数年後にここで生まれる景色がもう浮かんでいるようだった。

北杜市の未来のためにできること

鈴木さんが食分野も始めたいと思う理由の一つには、毎年閑散期を迎える冬の北杜市を盛り上げていきたいという想いもあるそう。

「食の場を持つことで、季節を感じられるようなワークショップ、例えば大豆を育てて味噌にしたり、餅つきをしたり、小豆を煮てぜんざいをつくったり…そういったこともできるようになる。そうして人を呼んで、うちといくつかのお店を回ってもらえれば、休業しているお店の多い閑散期に来た人にも、北杜市の良さを感じてもらえるんじゃないかなと思います。冬でも立ち寄れる場所をつくるのは観光地として大事なことだと思うようになったのはお店として場所をもったからこそ。ほんとうにこのまちは年間を通して素晴らしい場所なので、僕がというよりお店に来ることをきっかけに感じてもらえたら嬉しいです」

そう語る鈴木さんに、北杜市の良さとは何か最後に尋ねてみた。

「北杜市は都内からのアクセスも良くて、観光地としてのポテンシャルがあり、尚且つ気候や水など農業をするにも適した環境がある日本一の場所だと思います。その両方を活かして商売ができるのは、すごくありがたいなと思うんです。北杜市は移住者も多くてさまざまな人がいるので、みんなで一つの方向を目指すというよりも、それぞれが好きに個性を出せる多様性のあるまちになっていけば面白いと思います。やっていることは違っても、『北杜市っていいよね』という感覚は共有できていて、ゆるやかにまとまっているという状態がつくれたら強いんじゃないかなって。その雰囲気があれば、きっとこのまちに遊びに来た人にも伝わっていくのではないでしょうか」

株式会社Flowers for Lena
山梨県北杜市大泉町西井出8240-1069
http://flowersforlena.com