東京都羽村市に本店を構えるスーパーマーケット「福島屋」は、“食のセレクトマーケット”を謳い、安心・安全で良質な食材・食品を提供している、人気のスーパーだ。
羽村本店、立川店、秋葉原店、六本木店、虎の門店の計5店舗の店頭には、「北杜野菜」のコーナーが設けられ、週5日直送される北杜の新鮮な有機野菜が並んでいる。
この「福島屋×北杜野菜プロジェクト」の始まりのきっかけとなったのは、北杜市と羽村市との姉妹都市提携から始まった、商工会を中心とした産業交流。
2019年に福島屋と北杜市の有機野菜の生産者をつなぐ話し合いが行われ、翌年4月から、北杜市フードバレー協議会の事業として野菜の取引がスタートした。
今回は、福島屋の代表取締役会長を務める福島徹さんと、このプロジェクトの生産者側の窓口となり出荷の取りまとめを行なっている畑山農場の畑山貴宏さんにお話を伺った。
「食」を通して楽しい未来をつくっていく
株式会社福島屋 代表取締役会長
福島 徹さん
酒屋から始まり・コンビニエンスストアなどを経て、80年に業態転換し、現在のスーパーの業態へ。良い食材に対して熱い情熱を持ち、日々生産者や加工業者と情報交換を行い、「食」から未来を作ることをテーマに活動をしている。著書に『福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密』(日本実業出版社)。
ーー「福島屋×北杜野菜プロジェクト」が始まって一年が経過しましたが、どのように感じていますか?
福島屋では、「食で健康を保全する」「トップクオリティのおいしさを提供する」という2つのコンセプトを大切にしています。
その実現のためには、自然界の摂理に沿ったものを身体に取り入れるのが一番だと考えていますが、現代は狩猟・採集で食材を確保することが難しい時代ですので、福島屋ではこだわりの旬の食材を全国からセレクトし、お客様にお届けしているんです。
北杜の有機野菜は、そのような私たちのコンセプトにとてもフィットしています。
また東京との距離が近く、新鮮な野菜が短時間で届くところも嬉しいポイントです。私も何度も北杜に足を運んでいますが、空気も水もきれいで、素晴らしい生産環境だと感じています。
ーー畑山さんを中心とした出荷メンバーから、「福島屋は生産者に寄り添ってくれるスーパーだ」と聞きました。福島さんのお考えを聞かせていただけますか?
僕は、野菜、魚、果物などの一次産品は、経済的な目的のために手を加え過ぎてはいけない領域だと思っています。利益を追求すると、遺伝子組み替え、農薬、ケミカル添加…となっていきますが、先ほどお伝えした私たちが大切にしている2つのコンセプトからは遠ざかってしまいます。
しかし、そうは言っても現在は資本主義ですし、このような経済社会なので、お金を稼ぐ必要がある。そのために最近は「6次化が必要だ」と言われていますが、生産者の方が6次化するのは難しいと思うんです。生産者、加工業者、販売及び飲食店が三位一体となって、6次化を進めていく必要があると思っています。
“一体”というのは、オープンスタンスでやるということ。ビジョンを共有し、仕入額、販売額、利益がそれぞれいくらなのかしっかりとお伝えして、双方が納得する価格で取引をするべきです。保護するわけではないけれど、必要以上にビジネスライクに価格を叩いて、農家さんに無理をさせるような事業をしてはいけないと思っています。
ーー生産者を“一緒に未来をつくっていく仲間”と考えていらっしゃるような印象を受けました。
私たちは2つのコンセプトを元に、「あなたはこの野菜を多めに食べるといいですよ!」または「食べない方が良いですよ!」と食の処方箋をお客様に書いて差し上げることができるかもしれない。しかし、それに値するような野菜や果物が提供できないと、処方箋の意味はなくなってしまいます。
私たちの一番の願いは、生産者のみなさんに、これからもおいしく栄養価の高い野菜をつくり続けてもらうことなんです。
いいものがしっかり評価されないとクオリティより量を重視してしまうことになるので、それは阻止しないといけない。そのために僕らは生産者さんと『量×単価』ではない形のお付き合いをしていくべきだし、我々も付加価値をつけていく必要があると考えています。
良い関係性でいるためには、それぞれがプロとして技術を磨いて自立している状態で、協力し合うことが大切だと思います。
ーー最後に、今後北杜市に期待することを教えてください。
全国どこにいっても特定の大きな会社のスーパーマーケットや飲食店ばかりのこの状況下で、うちのように小さなスーパーマーケットが存続していくのは、大変なことなのです。しかし、僕はそんな世の中は面白くないと思っています。
「食」を通して楽しい未来をつくっていくために、これからもみんなで応援し合いながら、一緒に前に進んでいけたらと思います。
コロナもあってネガティブな要素を持った社会になってきている今、何か光になるような、明るいニュースを届けるようなことを、今後も北杜市と一緒に進めていけたら嬉しいです。
「北杜の野菜をより多くの人に届けたい」
畑山農場 代表
畑山 貴宏さん
1976年北海道生まれ。大学時代、有機農業のアルバイトをしたことがきっかけで「自然の中で心豊かに暮らしたい」という想いが強くなり、大学院卒業後、24歳で山梨に移住。約2.5ヘクタールの畑で年間約100品種の野菜を農薬・化学肥料を使わずに栽培している。育てた野菜から種を採り、翌年にその種を蒔く自家採取の取り組みも行なっている。
ーー畑山さんが福島屋への出荷を取りまとめているそうですが、どのような仕組みになっているのか教えていただけますか?
朝9時半に8名の生産者がうちに野菜を持ってきます。あらかじめ各店舗にどの野菜を何個送るかのリストをつくっておいて、それを見ながら野菜の仕分けをして、11時半には軽トラで近くの出荷場に運びます。出荷量は1日400パックほどで、週に5回出荷しています。
毎回、生産者が出荷できる野菜の数、5店舗それぞれが買い取りたい数を確認して、実際に出荷する数を生産者に連絡する作業が必要です。自分の畑もあるので大変と言えば大変ですが、共同出荷の経験は何度かあってノウハウがついていましたし、共同出荷することで北杜の有機野菜を広めていけるのは嬉しいことです。
ーー畑山さんから見た、福島屋の印象は?
商工会からの紹介で初めて福島会長にお会いしたときから、生産者の立場になって考えてくれる方だなと感じていました。福島屋さんとは信頼関係が築けるに違いないと感じて、ぜひ何か形にしたいと思い、僕からもアプローチを続けていたので、野菜の取り扱いが決まったときには嬉しかったです。
僕は福島さんの哲学がすごく良いと思っていて。畑で生産する人も加工する人も売る人も、みんなプロフェッショナルでいてほしい、それぞれがプライド持って仕事をして、お互いを尊敬・信頼しあってこそ、いいものが生まれるという考え方なんですよね。
出荷しているメンバーにもこの福島さんの考えを伝えて、みんなでその期待に応えられるようにレベルアップしていこうとがんばっています。
ーー出荷を開始して一年になりますが、みなさんの反応はいかがですか?
お店からは、品質の良さを喜んでもらっています。野菜の味はもちろん、見た目もきれいだと言われることが多いですね。
福島屋さんは硝酸態窒素の数値など独自の基準を設けていて、それをクリアしているものだけを売っています。お客様にも数値を公表しているので、自分たちの野菜を納得・安心して買ってもらえるのがいいですよね。
生産者側も、良い価格で買い取ってもらえているので、その評価にやりがいを感じています。福島さんとも実際に会っているので、僕と同じようにみんなも信頼を持っていますし、双方にとって良い関係が築けていると思います。
コロナが落ち着いたら、福島屋さんのお客さんに農業体験に来てもらったり、お店のスタッフさんともっと交流したりして、一緒にできることをさらに増やしていけたら嬉しいです。
ーー最後に、このような取り組みを通して、実現したいビジョンがあれば教えてください。
「北杜の野菜」をもっと多くの方に知ってもらいたいです。他の産地に負けない品質の野菜をつくっているという自信はありますが、まだ広く知られているとは言えないと思います。
ブランド力を上げていくには、個々の生産技術を上げていくこと、つくる人を増やすことが大事だと思っています。中山間地だから大規模にやるのはむずかしいけれど、がんばれば今の2倍くらいは生産できると思うんです。北杜で農業をやりたい人も増えているので、その人たちのサポートもしっかりとして、全体的に生産力を上げていければと思います。
おいしい野菜をもっとたくさん獲れるようにして、今回の福島屋さんとの取り組みのような活動を地道に続けていけば、自然と売り先も増えていくと思いますし、お客さんが北杜の野菜を目にする機会も増えると思います。そうしたら、「北杜の野菜っておいしいよね」というイメージがもっと広がっていくのではないでしょうか。
みんなで力を合わせた方が大きな変化を生み出せるはずなので、これからも心強い北杜の仲間たちと協力してがんばっていきたいです。