合鴨農法で安心・安全な美味しいお米をつくる

高瀬さんちの48 高瀬弘樹さん

須玉町で合鴨農法や合鴨ロボットを取り入れた農法により、栽培期間中農薬不使用で農林48号などの美味しいお米をつくっている高瀬弘樹さん。合鴨の力を借りながら行うお米づくりのメリットやそれに対する想い、デザインやストーリーを大切にした商品開発などについてお話いただきました。

高瀬さんは須玉町に点在する計3ヘクタールの田んぼで農林48号やにこまるなどの品種を軸に、計12品種のお米を育てている。全体の約7%の田んぼに合鴨を放ち、土を攪拌してもらうことで稲の根元への酸素供給を高め、雑草や害虫を食べてもらうことで稲の成長が助けられ、安心・安全なお米づくりが出来ている。また、面積の大きい田んぼには合鴨ロボットや乗用除草機を導入することにより、合鴨農法と同じ様に除草剤や殺虫剤を使わずに体に優しいお米をつくっている。

平成8年、北杜市(旧須玉町)の協力と補助を受け、合鴨農法研究会が発足した。当時は30軒ほどの農家が合鴨農法に取り組み、付加価値高級米として販路を開拓していたが、合鴨農法は労力がかかるために軒数は徐々に減少し、最終的には高瀬さんの父親である豊有さんのみが残った。代表を引き継いだ豊有さんは、合鴨たちに愛情を持って接し続け、改善を重ねながら合鴨農法を守り抜いてきた。

「前職で疲弊していた時に実家で父のつくったお米を食べてその美味しさに感動し、自分も米づくりをしたいと思いました。父は『合鴨農法で農薬を使わずにつくる米が一番うまい』といつも言っていて、それを継承していきたいと思ったんです。合鴨農法では、田植えの3週間ほど前にヒナを家に迎え入れ、餌をあげたりして人に慣れさせてから田んぼに放つのですが、そうすると人に懐いて集まってくるようになります。そんな合鴨たちは可愛くてたまらないのですが、だからこそ合鴨農法をやめるか悩んだ時期もありました…」

約15年前に合鴨農法で米づくりをスタートした高瀬さんは、合鴨たちの可愛さに癒され励まされながらも、田んぼでの役目を終えた合鴨たちの行く末について頭を悩ませていた。野生に放すことは法律で禁止されているため、自身で解体するか食肉処理場で解体するより他ない。それは高瀬さんにとって精神的にも体力的にも辛いことだったが、そうして思い悩んでいる時期にある施設から声がかかったという。

「『道の駅南きよさと 花の森公園』のスタッフの方々が田んぼから引き上げた合鴨を飼育してみたいと伝えてきてくれたのです。殺めてしまうのは避けたかったので、本当にありがたい申し出でした。たまに様子を見にいきますが、スタッフさんやお客さんに可愛がられていて嬉しくなります。」

『道の駅南きよさと 花の森公園』内の売店では合鴨の餌が販売されており、合鴨たちはお客さんに餌をもらいながらのびのびと暮らしている。無事に合鴨の卒業先が決まり、安心して合鴨農法に取り組めるようになった高瀬さんは、合鴨農法で学んだことを別の田んぼにも応用しながら少しずつ事業規模を拡大してきた。

「全てのお米を合鴨農法でつくれたら良いのですが、合鴨農法は合鴨を毎日巣箱に集める作業や外敵から守るために田んぼの周りに網を張る作業などが必要でとても労力がかかります。そこで取り入れたのが合鴨ロボット。合鴨のように雑草や害虫を食べてはくれませんが、土を攪拌させて水を濁らせることで光合成を阻害して雑草の種の発芽、成長を遅らせてくれます。田植え時15㎝ほどの苗は順調に根付いて、雑草との生存競争を有利に進めることができるのです。また条間除草機を併用することで、合鴨を入れない田んぼでも農薬を使わずに美味しい米づくりができています」

専業農家として暮らしていくためにはある程度の生産量が必要となる。高瀬さんは5年ほど前にコンバインや乾燥機などの機械を導入し、作業の効率化にも本腰を入れた。それでも合鴨農法の考え方をベースとした丁寧な米づくりをしているという点は今も変わらない。

高瀬さんが愛情を込めてつくるお米は、安心・安全で甘くて豊かな味わいがすると人気が高い。米・食味分析鑑定コンクール国際大会では過去に5度入賞し、その他のコンテストでも何度も受賞を果たしている、折り紙つきの美味しさだ。

「賞をいただくことは大きな自信になりますし、今後のお米づくりへの情熱にも繋がります。それに応援してくださるファンの方に喜んでいただけるので嬉しいです。美味しいお米ができるのは北杜市の水や土、日当たりの良さなどの環境のおかげです。北杜市が美味しいお米が育つ産地であるということをもっとPRしていけたらいいなと思います」

高瀬さんのお米を毎年楽しみにしているファンの中には、お米の品質のみならず高瀬さんの数ある取り組みのファンである人も多い。農林48号の家系図(交配図)を再現するために関連のある品種を育てて食べ比べができるようにしたり、育てたお米を使用した日本酒を長野県の醸造所に委託してつくったり、合鴨ロボットとの出会いを漫画にするなど、その取り組みは非常に多岐にわたっている。(ホームページ参照)

そんな高瀬さんが現在力を注いでいるのは、花札をモチーフに山梨・北杜の名所、生き物、四季折々の植物を当てはめてデザインしている12品種白米アソートセット「米物語」。コシヒカリやひとめぼれなどのメジャー品種に加え、有機農家ならではのレアな品種など多種多様なお米が味わえる。

「縁起の良いパッケージデザインなので、毎年お正月に食べるセットとして人気が出れば嬉しいなと思います。ご飯を食べながら北杜市、山梨県の素晴らしい自然、景観、物語を想い浮かべて頂けたら、さらに嬉しいです」

商品に込めた想いやストーリーを説明をするときの高瀬さんの表情はとてもいきいきとしている。前職は営業マンだったそうだが、その経験が活かされている部分も大きいのだろう。

「伝え方を考えることが楽しいんですよね。こういった細かなことに力を注いでいたら機械化に力を入れるまでに10年もかかってしまいましたが、こういった取り組みを応援、協力してくれた方が沢山いてくれたので意味はあったと思います。今はまだ体力もありますし、目標や楽しいことがあれば米づくりももっと頑張ろうと思えるので、これからもさまざまなアイデアを形にしていけたらと思っています」

高瀬さんは農法や商品づくりの一つ一つにこだわり、繁忙期には人の手を借りながらも基本的には自分の手が回る範囲で米づくりを続けてきた。しかし、これから高齢化が進み、周囲の環境が変わってきたら、さまざまな選択を迫られる日がくるかもしれないと高瀬さんは語る。

「周りの農家さんたちが引退したら『うちの田んぼも借りてくれ』という依頼が増えてくると思います。今後すごい勢いで放棄田が増えるという試算も出ているみたいですが、放棄田となり水路の管理がされなくなると、それより低い位置にある田んぼに水が引けなくなってしまいます。地域の稲作環境を守るためには、人を雇って広範囲の田んぼを管理することも必要になってくるかもしれません。できれば今の農法にこだわっていきたいという想いはありますが、農薬不使用栽培と慣行農法の両方をしていくことも考えています。どういう選択をするかはその都度決めていかねばと思っています」

条件の良い田んぼをまとめて借りることができれば、事業としてのチャンスであり、それが地域のためにもなる。ただし、それを自分の納得のできる形で実現することや継続させていくことは容易なことではない。

「効率化、収量収入を増やし経営を安定させつつ、行政と連携して北杜市のお米作り、素晴らしい自然環境を守り、事業発展していけるよう頑張っていきたいです。高齢化や温暖化など、農業を取り巻く環境は変わり続けてさらに厳しくなりますが、『美味しいお米をつくる』ということにいつまでもこだわっていきたいです」

高瀬さんは豊有さんが守り抜いてきた合鴨農法を継承しながら、今後の農家としての在り方についても思いを巡らせる。やりたいこととやるべきことのバランスを取りながら、これからも食べた人を思わず笑顔にする美味しいお米をつくり続けていくのだろう。