想いを共有する仲間と共に八ヶ岳南麓の食や土地の魅力を伝える    道の駅こぶちさわ 林大介さん  

清らかな湧水と空気、日本一を誇る日照時間の長さなどの自然環境に恵まれた八ヶ岳南麓エリアでは、美味しい高原野菜が多く育つ。今回ご紹介する「道の駅こぶちさわ」は、このエリアの伝統的な風土の良さを生かした安心して食べられる自然食= “八ヶ岳スローフード” とこの土地の魅力を広く伝えながら、地域のハブとなっている場所だ。

 

道の駅こぶちさわには、約150名の生産者が朝採れの農産物を届ける直売所「Farm-to-table Market」をはじめ、地元産の小麦粉や旬の野菜・くだものなどを使用する山のパン屋「桑の実」、四季折々の新鮮な果物を使い、国産・無添加にこだわってつくるジャム工房「夢の木」、八ヶ岳南麓のそば粉と地下天然水で打った絶品蕎麦を提供する「延命そば処」などの個性豊かなテナントが揃う。2019年のリニューアル時からは八ヶ岳スローフードの本格イタリアンを味わえる「ロトンド 小淵沢」も加わり、施設一体で小淵沢に来訪される方々を八ヶ岳南麓の恵みでもてなしている。

 

今回は、「お客様に八ヶ岳南麓ならではの心地よさの中でくつろいでいただきたい」と語る道の駅こぶちさわ総括店長の林大介さんに、この場所を通して表現したいことを伺いました。

 

八ヶ岳スローフードを伝承する道の駅

道の駅こぶちさわは、着いた瞬間誰もが思わず深呼吸したくなってしまうほど、自然豊かなロケーションの中にある。人口約5000人の小淵沢地域の山の中にある道の駅だが、自然との触れ合いや癒しを求めて八ヶ岳エリアを訪れる人々が気軽に立ち寄り楽しめる場として遠方から観光で来る方にも地元の方にも愛されており、年間を通して多くの人々でにぎわう場所だ。

農産物直売所「Farm-to-table Market」は、明るく広々としていて開放感にあふれている。

 

以前の店舗と比較して店舗面積を約1.5倍に拡張したという店内は、食への関心が高い子育て世代の女性にも買い物を楽しんでもらえるようにと設計されており、通路幅はベビーカー2台が余裕をもって通れるように最大2.4メートルと広く設けられている。棚の高さも一般的な食品売り場の高さから約15センチメートルほど低く作られており、女性が目線を下げた時にちょうど見やすい高さになるように工夫されている。

棚に並ぶのは、八ヶ岳南麓エリアの生産者が毎日届ける新鮮で生命力豊かな農産物。キャベツや白菜などの定番の野菜から一般のスーパー等ではなかなか見かけることのないスイスチャードやコールラビ等の珍しい野菜まで季節感あるさまざまな野菜が揃っており、幅広い客層から「売り場を眺めているだけでも楽しい」と評判だ。

 

「口に入る物なので安心・安全なものをお届けしたい」という想いから、国で定められている農産物の生産行程を管理するHACCP(ハサップ)という制度の活用はもちろん、更に独自の検査方法を用い、農産物の高い品質と安心・安全を担保している。

 

農産物の約35%は有機・無農薬で栽培されている。この割合は他の直売所よりも圧倒的に高く、食に問題意識を持ち都会から移住して農業を始める新規就農者が多いという地域性が表れている。他の地域からの仕入れはせず、地元で育てられたもののみを販売しているという点も大きな特徴だ。

 

八ヶ岳エリアの魅力を伝える場所をみんなでつくる

統括店長を務める林大介さんは、横浜からの移住者であり、以前は大手コンビニエンスストアの本社で営業部長を務めていた。利便性を追求するよりも大切なことがあるのではないかと考え小淵沢への移住を決意し、道の駅こぶちさわを運営するスパティオ小淵沢に入社。2019年の春に行われたリニューアルオープン時から統括店長に就任した。

 

「道の駅こぶちさわが地域にしっかりと根を張ることができているのは、まだ地産地消という言葉もなかった約25年前に地元女性たちによって発足された『小淵沢町食と健康を考える会』のメンバーが、 八ヶ岳スローフード を伝えていくために活動を始め、一つ一つ小さなものを積み上げてきてくれたおかげです。その考えを礎として、同じ想いを共有できるメンバーと一緒に道の駅こぶちさわをつくりあげて行きたいと考えております。」

新店舗オープン時からテナントに加わった『ロトンド小淵沢』も、道の駅こぶちさわの想いに共感して加わったテナントの一つ。毎日シェフが直売所で朝採れ野菜を調達し、素材の味を最大限に引き出す調理を施した料理を提供することで、食と農が融合した八ヶ岳南麓のライフスタイルをお客さんに伝えている。

東京の広尾に本店を持つ一流イタリアンレストランのシェフたちが八ヶ岳の南麓の新鮮な農産物や県産の食材を使ってつくるメニューはどれも絶品であり、「道の駅でこんなに美味しく地元のものを食べられるなんて!」と観光客はもちろん、地域の方々にも喜ばれている。

 

 

東京の広尾に本店を持つ一流イタリアンレストランのシェフたちが八ヶ岳の南麓の新鮮な農産物や県産の食材を使ってつくるメニューはどれも絶品であり、「道の駅でこんなに美味しく地元のものを食べられるなんて!」と観光客はもちろん、地域の方々にも喜ばれている。

 

生産者と協力しておこなった直売所の加工品の強化も、林さんが来訪者に八ヶ岳スローフードを届けるために新店舗オープン時に力を入れたことの一つだ。

 

寒さが厳しい冬の八ヶ岳の麓の環境下では農産物がほとんど育たないため、どうしてもお店に並ぶ商品の数が減ってしまう。「冬場の八ヶ岳エリアに魅力を感じて来てくださるお客様に何か思い出として持ち帰れるものを用意したい」と考えた林さんは、リニューアルの半年ほど前から次の冬に向けて加工品の準備をしていくことを呼びかけ、生産者組合に加工部会をつくってもらうなどして、ジャム、ジュース、切り干し大根などの加工品を新たに増やした。冬場の観光で道の駅を訪れる方々にも好評であり、生産者の方々も冬場の収入が見込めるようになったことで、地域に良い循環が生まれたという。

「この地域を愛する生産者さん、テナントさん、直売所のスタッフ、そして地域の方が一緒に、この場所にしかない心地よさをつくりあげているんだと思います。これからも道の駅こぶちさわに訪れる方々が、『八ヶ岳南麓っていいところなんだ!!』と体感して頂ける場所にして行きたいと思います。」

 

さまざまな仲間と協力し八ヶ岳南麓エリアの魅力を多くの人に届けてきた林さんは、「このエリアにはまだまだポテンシャルがある」と考えており、現在も新たな計画を進めている最中なのだそう。25年前から小淵沢の女性たちが地域にしっかりと張ってきた根は、道の駅こぶちさわという丈夫な太い幹を育てた。これからさらに様々な枝葉を伸ばしていくのだろう。