旬にこだわる有機野菜生産者団体                   農事組合法人八ヶ岳やさい倶楽部

2008年に設立された農事組合法人「八ヶ岳やさい倶楽部」は、有機農業を営む13世帯から成る共同出荷グループだ。八ヶ岳南麓、標高600〜900mの地でつくられる旬の有機野菜は、「野菜のおいしさが最大限に引き出されている」と広く消費者に愛されている。

 

メンバーは全員が都市部での就労経験のある新規就農者。全く異なる職種で働いていた各々のメンバーが、各々の畑で野菜づくりをしているにも関わらず、組合として品質の良さを守り続けられる理由は何なのだろうか。

 

今回は、八ヶ岳やさい倶楽部としての野菜づくりのこだわりや、共同出荷のメリットなど、さまざまなお話を代表理事を務める石川宏治さん、理事の中森信康さん、佐藤三男さんに伺いました。

 

旬にこだわった有機野菜づくり
梶原農場の研修を経て

八ヶ岳やさい倶楽部のメンバーは、北に八ヶ岳、西に南アルプスという恵まれた自然環境の下、農薬・化学肥料を使わず自然環境負荷の少ない方法で、品質のよい『旬』の野菜を露地栽培で生産している。

 

「寒い時期は寒い風に当たることで、野菜はたくましくなり、味ものってくるんです。露地栽培で農薬・化学肥料不使用となると、自然の摂理に寄り添う他ありません。旬の時期につくった野菜には虫も病気も跳ね除けるパワーがあるので、見た目もきれいなものができます。僕らは見た目のきれいさも、美味しさの一要素だと思っているんです。」

 

そう語る石川さんが代表を務める八ヶ岳やさい倶楽部が出荷している野菜は、その見た目からも、自然環境の中で健やかに育ったことが感じられ、青々としていて美味しそうだ。

八ヶ岳やさい倶楽部への加入条件は、野菜の生産の際、農薬と化学肥料が不使用であること。そして、農業という職業で、しっかり稼いで食べていくという覚悟を持っていること。

 

現在のメンバーは、全員がもともと別の職種に就いていた新規就農者であり、そのほとんどが、北杜の有機農業を長年牽引してきた「梶原農場」の研修の卒業生であるという。

左から佐藤さん、石川さん(代表)、中森さん

石川さん:「僕は東京でサラリーマンをしていたのですが、朝から晩まで会社にいて、起きている子どもの顔が見られない生活に疑問を感じたんです。自然環境の中で、子どもたちとたっぷり関わりながら生活したいと思って、たまたま知り合いが参加していた梶原農場の研修に参加させてもらいました。」

中森さん:「僕もパソコンのシステム関係の仕事をしていましたが、人生の時間の中で仕事が占める割合ってかなり大きいなと感じて、家族といる時間を増やすために農家になることを選びました。独立して一番困るのは売り先だと思うのですが、研修後は梶原さんが仲間と立ち上げた八ヶ岳やさい倶楽部に参加するという流れが既にできていたので、安心して農業を始めることができました。」

佐藤さん:「僕はもともと建築士です。この組合のメンバーは、前職で全く違うことをしていた人ばかり。僕らは農薬を使った農業を知らないから、『有機農業って大変ですよね』と言われても、大変なのかわからないんですよね。常に失敗はあるけど、それが普通だと思っているので。知らぬが仏ということなのかもしれません(笑)」

 

梶原農場での野菜づくりの経験がベースとなっているメンバーがつくる野菜は、一定のクオリティが担保されている。そして日々、つくった野菜を持ち寄り、情報共有をする仲間がいるからこそ、今よりさらに美味しい野菜をつくろうという前向きな気持ちになれるのだそうだ。

 

共同出荷の仕組みとメリット

組合のメンバーは、午後になると高根町にある共同出荷場に箱詰めした野菜を持ち寄る。

出荷する野菜が全て出揃ったところで運送会社の大型トラックに積み込み、その日の便を送り出し、またそれぞれの農作業に戻っていく。

生産者は、輸送費や受発注システムに関わる手数料として、売り上げの20%を組合に支払う。まとめて一度に輸送することで物流費が抑えられるという点はもちろん、ある程度の数量が確保できることで大きなスーパーや生協を相手にできるというメリットや、出荷する野菜の数が足りない際に補填し合えるというメリットもあるという。

 

石川さん:「個々はそれぞれの農家の社長なわけで、それぞれが自分なりの方針を持っていると思います。もちろん、八ヶ岳やさい倶楽部としての方針もある。それがうまく重なり合っているのでしょうね。これからまた新しいメンバーに入ってもらって、組織を常に循環させていけたらいいなと思います。」

 

地域の学校給食で地産地食を推進

八ヶ岳やさい倶楽部の野菜の多くは、2004年から提携している生活クラブ連合会や、2006年から提携している生活クラブ山梨などへ届けられる。

 

また、一部は北杜市と韮崎市の学校給食にも使われている。年に一度は小学校に出向き、給食の食材として使われている野菜がどのように生産されているのかを子どもたちに伝える活動もしているそうだ。

(市政17周年式典で善行表彰された際の賞状)

中森さん:「子どもたちがその土地で採れた野菜を日常的に食べられる環境づくりをしていくのは、市としていい取り組みですよね。僕らが学校の授業に行く時には、美味しい野菜をつくるのに北杜の環境がどう関係しているのかを話して、それを大事にしていこうねと伝えています。北杜市には、まだまだ農家がたくさんいるので、さらに地産地食を推進していけたらいいですよね。」

八ヶ岳やさい倶楽部は、他にも農業大学校の研修生の受け入れや、大豆・小麦の共同生産なども行っている。大豆を使った味噌づくりや小麦を使った麺づくりも自分たちで加工手配をし、少量ではあるが地域の直売所などで販売しているそうだ。

 

農家同士で協力し合うことで、できることの幅は大きく広がる。

こうした組合があることで起こる小さな変化が、少しずつ地域の未来を変えていくのかもしれない。